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広島高等裁判所岡山支部 昭和50年(う)70号 判決 1976年4月22日

一、本店所在地

浅口郡鴨方町大字六条院中三、四六二番地

法人の名称

栗山精麦株式会社

代表者住居

前同所

代表者氏名

栗山章子

二、本籍

浅口郡鴨方町大字六条院中三、四六二番地

住居

右同所

精麦業

栗山好幸

大正一五年一月二二日生

右両名に対する法人税法違反被告事件につき、昭和五〇年五月二日岡山地方裁判所が言渡した判決に対し、原審における被告人両名の弁護人からそれぞれ適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は検察官井阪米造出席のうえ審理をして、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人両名の弁護人竹下重人名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

論旨第一点(事実誤認の主張)について

論旨は要するに、原判決は被告人栗山精麦株式会社(以下単に被告会社という)の本件係争各年度における所得金額は、被告会社の申告にかかる所得金額に、当該年度中に被告会社が遠藤商店こと遠藤栄一から玄麦を買入れたように装つて仕入代金として経費に計上した架空支出金額、被告会社が株式会社中国銀行鴨方支店に架空名義または他人名義で預け入れていた簿外預金の利息、被告会社が架空名義または他人名義で保有していた株式、投資信託の利益配当金及び株式の処分益等を加え、簿外借入金の支払利息等を控除して算出すべきものとして、原判示の所得金額が存在したことを認定したものと認められるところ、原判決挙示の証拠中、遠藤栄一の検察官に対する供述調書には、右のような架空取引の事実を認めた供述記載があるが、右供述調書はこれと相容れない同人の原審公判廷における供述と対比して、これを信用すべき特別の情況があるものではなく、右供述調書の記載によつて架空仕入の事実を認定した原判決は証拠の取拾選択を誤り、事実を誤認したものである。この点に関する原判決挙示のその余の証拠は、いずれも関連性が乏しく、または信用に値しないものであり、むしろ遠藤が実際に玄麦を被告会社に売つていたことを認め得る有力な証拠がある。また被告人栗山が中国銀行鴨方支店に架空名義等を用いて定期預金をしていた事実はあるが、それが被告会社に属するものか、被告会社の社長であつた被告人栗山個人に属するものかを断定し得る証拠はない。被告人栗山が架空名義による証券取引等をしたことも事実であるが、その取引の主体が被告会社であるか、被告人栗山の個人資金を運用したにすぎないかも、証拠上確定することはできない。しかるに原判決が右定期預金や証券取引資金等の出所について究明することもなく、漫然とこれを被告会社に帰属するものとして、被告会社の所得金額を算出したのは、証明力薄弱な証拠に依存して重大な事実誤認を犯したものである、というのである。

よつて記録を精査し、当審における事実取調の結果をも参酌して検討するに、原判決挙示の各証拠によれば、本件係争各年度における被告会社の各所得金額が原判示の金額に達していたことは、優に認めることができる。その詳細は次のとおりである。

一、被告会社が本件係争各年度中、遠藤商店こと遠藤栄一より玄麦を買付けたとして、経費に計上している仕入代金が、取引を仮装した架空の支出であることの証拠として、遠藤栄一の検察官に対する各供述調書が存在する。論旨は遠藤の右各供述調書は、同人が長期間の勾留に疲れ果て、錯乱状態にあつた時期に、弁護人以外の者との接見交通が禁止されていたにもかかわらず、警察官がひそかに同人の妻静子と立会人なしで面接させるという不明朗な手段を弄して作りあげた調書にもとづいて作成されたものであると推測され、遠藤の原審公判準備期日及び公判廷における証言と対比して、前の供述を信用すべき特別の情況はない、というのである。しかし原審第二二回公判調書中の証人遠藤静子の供述部分によれば、遠藤栄一は昭和四二年三月二三日、岡山県議会議員選挙において被告人栗山に当選を得させる目的でした選挙運動に関する公職選挙法違反の容疑で逮捕され、その後勾留のまま起訴され、同年五月二五日保釈出所したものであることが認められ、一方本件の前記各供述調書中には右保釈出所以前の日付である同年五月二〇日付、同月二五日付の二通が存在するけれども、その後作成された同月三一日付、同年六月六日付、同月二七日付、昭和四三年七月五日付の各供述調書においても、架空取引の内容が一層明らかに述べられているのであつて、これらの調書が所論のような精神の錯乱や不当な利益誘導から生じた信用がおけない供述を録取したものであるとの主張は、この点において既に首肯しがたい。もつとも遠藤静子の前記供述によれば、栄一の勾留中、同人との接見が禁止されていたのに、警察官の計らいで静子が数回にわたり同人と面会し、警察官の立会なしで面会したこともあつたこと、その際栄一がひどく疲労し、精神的に弱つているように見受けられたことがうかがわれるけれども、それだけのことから右各供述調書の信用性に格別の疑いが及ぶものとは考えられない。むしろ右各供述調書の内容は具体性に富み、何ら不自然な作為の跡が認められないのに対し、原裁判所の証人遠藤栄一に対する尋問調書及び原審第一八回公判調書中の同人の供述部分は、「栗山から水増し請求を頼まれたことがあつたようにも思うし、夢であつたかもわからんような気もする」、「検事に帳簿を見せられた覚えはない」、「玄麦仲買の商売をいつやめたか覚えがない」、「検事にどんなことを述べたかも記憶がない」というような、全く取りとめのない、投げやりなものであつて、両者を対比すれば、前の供述を信用すべき特別の情況がある場合に当るということができる。原審第三七回公判調書中の被告人栗山の供述部分及び当審公判廷における同被告人の供述によつても、右の判断は左右されない。

そして遠藤栄一の右各供述調書と原審第九回公判調書中の証人筒井靖枝、同第一〇回公判調書中の証人栗山繁昌、同第一三回公判調書中の証人清水宏の各供述部分、検察官に対する赤沢朝子、田口シゲ子、生原俊子、宮崎正美の各供述調書、領置してある請求書及び領収書(当裁判所昭和五〇年押第六号符号二ないし二五号)、遠藤栄一玄麦買入計算書二冊(同符号二六、二七号)、総勘定元帳二冊(同符号六八、六九号)を総合すれば、被告会社の代表取締役であつた被告人栗山が被告会社の利益をかくす目的で、玄麦の仕入数量を水増しすることを企て、昭和三五年一二月ごろ、同被告人の友人で玄麦の仲買を業としていた遠藤栄一に対し、被告会社に売渡す玄麦の数量及び代金額を水増しした請求書及び領収証を作成して被告人栗山又は同被告人の妻章子に交付し、これと引換えに水増し代金額に見合う小切手を受取り、これを銀行で現金化したうえで改めて被告人栗山又は章子に右現金を返すという形で、偽装工作に協力してくれるよう依頼し、遠藤の承諾を得たこと、遠藤は右の方法で取引を仮装した玄麦の水増し分一俵ごとに一〇円の割合で手数料をもらつていたが、このため被告会社の帳簿から算出された同人の所得額が実態より上まわる結果を生じ、昭和三七、三八年度の営業所得につき三九年七月一〇日付で更正決定を受け、不足税額を追徴されたので、被告人栗山にそのことを告げ、金三万円位を出してもらい、そのころから一俵分の手数料を一五円に改めたこと、昭和三二年頃から以降は政府の麦を農家から高く買い、これを下まわる価格で払い下げる二重価格政策の影響で、被告会社が実際に仕入れる玄麦のほとんど全部が政府麦で占められていたが、昭和三八年三月以降は遠藤が玄麦の仲買をやめたので、その後の被告会社と同人との帳簿上の取引は全部架空のものとなつたこと、本件係争年度である昭和四〇年度(三九年六月一日から四〇年五月三一日。以下同じ)及び四一年度(四〇年六月一日から四一年五月三一日。以下同じ)において、被告栗山は前記のような偽装工作により、それぞれ金一、五八四万三、一四〇円及び一、五二九万六、五一〇円相当の玄麦を遠藤から買付け、これに見合う支出をしたように装い、被告会社の所得をそれだけ少なく計上していたこと、その以前の水増し金額も、昭和三八年度には七〇〇ないし八〇〇万円位、三九年度には一、七三二万一、五五六円にのぼること等が認められ、原審第三七回公判調書中の被告人栗山の供述部分、同第二九回公判調書中の証人栗山静夫の供述部分、同第三三回公判調書中の証人渡辺康雄の供述部分及び当審公判廷における被告人栗山の供述中、右認定に反する部分は信用できない。論旨援用のその余の証拠によつても右認定は左右されない。

二、原審第三回公判調書中の証人荒川八郎、同第四回公判調書中の証人今在沢一、同第七回公判調書中の証人佐藤求、同第二三回公判調書中の証人片岡末男、同梶谷重平の各供述部分、中国銀行鴨方支店支店長荒川八郎作成の「定期預金利息月別支払明細について」及び「定期預金残高について」と題する各証明書、領置してある担保品元帳と題する綴(内容は預金の明細を記したメモ、当裁判所昭和五〇年押第六号符号一号)及び定期預金元帳(同符号三一ないし三三号)によれば、株式会社中国銀行鴨方支店はかねてより被告人栗山又はその妻章子が持参する金員をその都度架空名義の定期預金として受入れ、その総額は昭和三三年四月ごろには約七、〇〇〇万円であつたが、三五年二月ごろには約八、〇〇〇万円に達し、その後毎年五月三一日現在において、昭和三六年に一億五、六四五万円、三九年に一億八、〇〇六万円、四〇年に一億九、八〇〇万円、四一年に一億六、二九七万円、四二年に一億六、三九二万円にそれぞれ達していたこと、これに対する利息は昭和三九年六月一日から四〇年五月三一日までの間に九三五万二、一九六円、四〇年六月一日から四一年五月三一日までの間に九九七万三、八五三円にのぼつたことが認められる(論旨は荒川八郎作成の前記二通の証明書の内容が作成名義人以外の者によつて記載されている旨指摘するが、右各証明書はそれぞれ中国銀行鴨方支店職員西山真貴子、同逸見信子が同支店の帳簿にもとづいて作成した明細書に同支店長荒川八郎が事実と相違ない旨の証明文言を加えた文書であることが明らかで、それ自体何らあやしむに足りない事柄であるのみならず、前記認定のような仮名預金の存在及び利息の発生については、被告人らにおいても原審以来何ら積極的に争つていないものである)。

論旨は右仮名預金については発生原因を確定し得る証拠がなく、これが被告人会社に帰属するものであることは明らかにされていないのみならず、むしろこれが被告人栗山及びその妻章子の個人資産に属することをうかがうに足りる事情が認められるから、前記の利息金は同被告人らの所得と認めるのが相当で、被告会社の所得ではないと主張する。

しかしながら被告人栗山の戸籍謄本、被告会社の登記簿謄本、原審第三七回公判調書中の被告人栗山の供述部分、同被告人の検察官に対する各供述調書、国税局収税官吏の同被告人に対する質問顛末書二通、前掲原審各公判調書中の証人荒川八郎、同今在沢一、同佐藤求、同栗山繁昌の各供述部分、荒川八郎作成の前掲各証明書を総合すると、被告人栗山は昭和二〇年九月、満一九歳で旧制大阪専門学校を卒業し、同二一年初ごろから個人で精麦業を営んでいたが、昭和二四年一二月二一日、資本金一五〇万円で被告会社を設立し、精麦業及び飼料製造業を営むこととし、代表取締役の地位についたものであること、被告会社は昭和三二年ごろ麦ぬかを原料とする接着増量剤の生産販売をはじめてから急速に収益を伸ばしたこと、被告人栗山の家族は母マサヨ、妻章子の外に長女京子、二女葉子、長男幸彦、二男康彦、三女智子の五人の子をかかえる大人数であること、章子は被告会社の役員に就任して報酬を得ているが、これを被告人が代表取締役として得る報酬と合わせても、昭和四〇年当時において年額四〇〇万円程度にとどまつていたこと、被告人栗山は昭和三五年ごろ約八三〇万円位を投じて不動産を個人の資産として取得していること、同被告人が被告会社から得る収入以外の所得について税務署に申告したことはないこと、前記仮名預金の口数は昭和四〇年当時約八二〇口、四一年当時約七五〇口に達し、一口の金額は平均二〇数万円程度で、同じ日に預け入れた預金も、いくつもの架空名義に分散されていること、被告人栗山は銀行関係者に対し、これらの預金の存在を税務当局に知らせないように強く要求していること、同被告人は昭和四二年四月一五日に施行された岡山県議会議員選挙に立候補し、その投票当日に選挙違反容疑で逮捕され、運動資金の出所を追求された結果、前記仮名預金の存在が発覚し、起訴後の勾留期間中に国税局収税官吏の取調を受けたが、その際係官の質問に対し黙秘権を行使し、右仮名預金の源泉について何ら具体的な弁明をしていないこと、翌四三年七月同被告人が本件法人税法違反の容疑で検察官の取調を受けた際にも、被疑事実に関しては終始黙秘し、何ら有利な申立をしていないこと、同被告人は右仮名預金の各預金証書等を中国銀行鴨方支店の支店長に一括して預け、保管を依頼していたが、前記の選挙違反に関連して運動員の遠藤栄一が前記のように昭和四二年三月二三日に逮捕されるに及び、資金源の追及が銀行関係にも及ぶことをおそれ、同被告人自身が逮捕される以前に右預金証書等を当時の同支店支店長荒川八郎から取り戻してその秘匿を図つていること等が認められ、これらの事実と前記のように同被告人が昭和三五年末ごろから玄麦の仕入量を水増しする方法により被告会社の巨額の収益を秘匿してきたこととを考え合わせれば、右仮名預金が被告人栗山夫妻の個人資産に属するものではなく、被告会社の所得を隠匿する手段として預け入れられたものであることを推認するに十分である。もつとも被告人栗山は前掲原審公判調書中の供述部分及び当審公判廷における供述中で同被告人夫妻の個人所得から右仮名預金を蓄積した旨述べているけれども、その内容は具体性を欠き、何ら客観的資料の裏付を持たないもので、容易に信用することができない。結局右仮名預金は被告会社の資産の一部であると認める外はないから、前記の利息金九三五万二、一九六円及び九九七万三、八五三円は、それぞれ昭和四〇年度及び四一年度中の被告会社の所得中に計上すべきである。

三、前掲原審公判調書中の証人今在沢一の供述部分、中国銀行鴨方支店支店長荒川八郎作成の手形貸付元帳についての証明書、山一証券株式会社岡山支店支店長増田幸良作成の証明書及び上申書、同支店作成の分配金証明書二通、野村証券株式会社岡山支店支店長越村隆(七通)、同神宝太郎(一通)作成の各証明書、右越村隆作成の上申書、大野利夫の検察官に対する供述調書、国税局収税官吏の大野利夫、豊田敏郎及び中村憲治に対する各質問顛末書、検察事務官作成の昭和五〇年四月一一日付電話聴取書、領置してある顧客カード(当裁判所昭和五〇年押第六号符号三四号)、有価証券出入券綴(同五〇号)、得意先管理カード(同五一号)、投資信託収益金支払請求書(同五三号)、念書綴台帳(同五四号)を総合すると、被告人栗山は昭和三七年五月一二日野村証券株式会社岡山支店において横山清名義で株式会社日立製作所の株式五万株を単価九一円、手数料等込み支払額四六一万円で買付け、以後同一名義で同種同量の株式を保有してきたこと(一、二六四丁、一、二七二丁、一、二八八丁、一、二九五丁、前記得意先管理カード)、同年九月二二日ごろ同支店において横山健一名義で第二オープン四、〇〇〇口を取得し、(四四〇丁、四四四丁、一、二五三丁、一、二九五丁)、昭和三八年二月一二日同支店において横山健一名義で東京芝浦電気株式会社の株式二万株を単価九五円で買付け、いずれも引続き保有してきたこと(一、二五五丁、前記顧客カード、同得意先管理カード)、昭和三八年四月八日同支店において横山清名義で前記日立製作所株式二〇万株を単価一〇九円、手数料等込み支払額二、二〇六万円で買付け、横山一夫名義で株式会社神戸製鋼所の株式二五号株を単価六六円、手数料等込み支払額一、六七五万円で買付け(一、二六六丁、一、二七七丁、一、二九〇丁、一、二九五丁、前記顧客カード)、同年同月一一日山一証券株式会社岡山支店において神坂昇一名義で右神戸製鋼所株式五〇万株を単価六六円、手数料等込み支払額三、三五〇万円で買付け(一、一七六丁、一、一七九丁、一、二九一丁)、以後引続き斎藤義夫、岡田修等の名義で同種同量の株式を保有してきたこと(一、一七六丁、一、一七七丁)、昭和三九年九月一六日ごろ同支店において山田元名義で第六オープン二、〇〇〇口を取得し、これを四一年九月二〇日原守名義で売却したこと(一、一七七丁、一、一七八丁、一、一八九丁、一、二〇八丁、一、二一二丁)、同年同月一六日同支店において岡田修名義で保有していた第九四回投資信託五〇〇口の償還金二五〇万一、八三〇円を回収していること(四三二丁、一、二〇六丁)、一方右のように日立二〇万株、神戸製鋼合計七五万株が総支払額七、二三一万円で買付けられた時期である昭和三八年四月中に中国銀行鴨方支店より前記仮名預金を担保として合計七、〇七〇万円が名義上は右仮名預金の各預金者に個別的に貸付けるという形で、被告人栗山に提供されたこと、本件係争年度中に以上の日立合計二五万株、神戸製鋼合計七五万株、東芝二万株、第二オープン四、〇〇〇口、第六オープン二、〇〇〇口、第九四回投資信託五〇〇口に対し、別紙配当所得表(一)及び(二)記載のとおり、四〇年度において合計手取金額四三七万三七五円、四一年度において同三三四万七、〇〇〇円の配当が行われていること(一、一八四丁、一、一八五丁、一、一八七丁、一、一八八丁、一、二一三丁、一、二一四丁、一、四四六丁)、その外に四〇年九月に神戸製鋼株式につき一対〇、〇一の無償交付が行われた当時、岡田修名義の七五万株の現物を名義忌避のため配当付で売つて、同量の配当付信用買をしていたので、一株につき三銭の割合の入札調整金合計二万二、五〇〇円から取引税四五〇円を差引いた金二万二、〇五〇円が入金されたこと(四二七丁、四三三丁、一、一八七丁)が、それぞれ認められる。

先に認定したような被告人栗山夫妻の収入、家族構成、資産形成状況や右のように株式の大量買付に要した資金が前記仮名預金を担保とする銀行借入でまかなわれたとみられる事情等からすれば、以上の株式等の形で保有されていた資産は、被告会社に帰属するものと推認するのが相当で、従つて右配当金等の所得は、いずれも本件係争年度中の被告会社の所得に計上すべきである。なお論旨が前掲越村隆及び増田幸良作成の各証明書について指摘する点は、荒川八郎作成の証明書に関する指摘と同様、格別異とするに足りない事柄であり、右の判断に何ら影響を及ぼすものではない。

四、前掲山一証券岡山支店支店長増田幸良作成の証明書によれば、右の日立及び神戸製鋼の株式について、日立二〇万株を昭和三九年三月二五日瀬川五郎名義で一、五二一万六、五〇〇円で買付け(一、一九四丁、一、一八二丁)、同年九月二四日斎藤義夫名義で手取金一、六五三万四、八〇〇円で売却し(一、一八三丁)、同年同月同日同名義で一、六八五万五、九三六円で買付け(一、一九六丁、一、一八四丁)、四〇年三月二六日手取金一、七三三万三、六〇〇円で売却し(一、一八四丁)、同年同月同日同名義で一、七六五万二、〇〇六円で買付け(一、一九五丁、一、一八四丁)、同年九月二四日岡田修名義で手取金一、五五三万六、三〇〇円で売却し(一、一八六丁)、同年同月同日同名義で一、五八五万三、七二八円で買付け(一、一九七丁、一、一八七丁)、四一年三月二六日同名義で手取金一、五五三万六、三〇〇円で売却し(一、一八七丁)、神戸製鋼七五万株を三九年三月二六日瀬川五郎名義で三、五一九万七、七七〇円で買付け(一、一九四丁、一、一八二丁)、同年九月二四日斎藤義夫名義で手取金三、六〇一万九、八七五円で売却し(一、一八三丁)、同年同月同日同名義で三、六七〇万九、五六〇円で買付け(一、一九五丁、一、一八四丁)、四〇年三月二六日同名義で手取金三、四五二万二、一二五円で売却し(一、一八四丁)、同年同月同日同名義で三、五一九万八、八〇五円で買付け(一、一九五丁、一、一八四丁)、同年九月二四日岡田修名義で手取金三、三〇二万四、三七五円で売却し(一、一八六丁)、同年同月同日同名義で三、三四〇万三、九〇八円で買付け(一、一九七丁、一、一八七丁)、四一年三月二六日同名義で手取金三、〇七七万七、七五〇円で売却する(一、一八七丁)取引が順次行われたことが認められる。従つて以上の取引により昭和四〇年度内に金四三万六三四円の利益、四一年度内に金七二三万三、七二二円の損失が生じたことになる。

五、前記の中国銀行よりの借入金七、〇七〇万円は被告会社の債務と認められるので、前掲荒川八郎作成の手形貸付元帳について及び同人作成の手形貸付利息明細についての各証明書により認められる右借入金に対する昭和四〇年度分支払利息三九八万三、六三七円(内訳前期未経過利息当期経過分六七万六、九九一円プラス当期中支払分三八八万七二五円マイナス戻利息五万二、七六四円マイナス未経過利息五二万一、三一五円)、同四一年度分支払利息二二六万六、三三三円(内訳前期未経過利息当期経過分五二万一、三一五円プラス当期中支払分一八四万六、五七五円マイナス戻利息七万六、九三一円マイナス未経過利息二万四、六二六円)は、被告会社の損金として計上すべきである。

六、前掲遠藤栄一の検察官に対する各供述調書及び遠藤栄一玄麦買入計算書によれば、被告会社は同人に対し架空仕入玄麦一俵当り一五円の割合による手数料として、昭和四〇年度中に八、六五五俵分一二万九、八二五円、四一年度中に八、一一二俵分一二万一、六八〇円を支払つたことが認められる。

七、領置してある法人税決議書二冊(当裁判所昭和五〇年押第六号符号七〇号、七一号)、広島国税局作成の調査所得(調査による増減金額)の説明書写二通によれば、被告人栗山が昭和四〇年度及び四一年度の被告会社の所得について前記一の各架空支出を計上し、同二ないし六の各損益をいずれも計上しないで、原判示のような虚偽の各法人税確定申告書を提出したこと、昭和三九年度分の被告会社の所得についても、これを二〇三万二、一六七円とする確定申告をしたが、当局の調査の結果三四九万三、五一六円と認定されたこと、その結果同年度分の未払事業税が一四万六、三四〇円と算出され、これを翌四〇年度分の被告会社の損金に計上すべきこと、同年度分についての未払事業税は三〇九万五一〇円となり、これを翌四一年度分の損金に計上すべきこと(もつとも右の金額は四〇年度分の所得を二、八二八万三、〇二六円として計算されたものであるところ、本件において既に検討したところにより認定される同年度分の所得は、二、八一〇万八、三一六円となるのであるから、これにもとづいて計算すると未払税額は二万一、〇〇〇円だけ少ない三〇六万九、五一〇円となるが、後者を正当とすべきものとしても、四一年度分の所得計算に関する限り、損金算入額が減る結果となり、むしろ被告会社に不利となる)が、それぞれ認められる。

八、以上の結果にもとづき、本件係争年度分の各申告所得金額にそれぞれ修正を加えると、原判示第一及び第二のとおりの所得金額となることが計算上明らかで、結局原判決には所論の事実誤認はない。

論旨第二点(法令の解釈、適用の誤りの主張)について

論旨は要するに本件係争年度の被告会社の各確定申告に対して国税当局がした各更正処分は、昭和四九年七月二二日付でいずれも取消され、再度の更正が許される期間は既に経過していたので、本件係争年度の各法人税は被告会社がした各確定申告どおりに確定したから、本件については納税義務逋脱の結果は生じなかつたことになるので、法人税法一五九条、同法一六四条違反の罪が成立する余地はないのに、その成立を認めた原判決は、法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。

しかし記録によれば所論の各更正処分が、被告会社に対し昭和四二年七月二七日付で行われた昭和三七年度以降の青色申告承認取消処分が最高裁判所第一小法廷昭和四九年四月二五日判決(昭和四五年行ツ第三六号事件)の趣旨にそい昭和四九年七月二二日付で取消されたことに伴い、いずれも同月二三日付で理由不備となつたものとして取消されたことは認められるが、納税義務者が脱税の意図をもつて虚偽の確定申告をした事実が認められる以上、これに対する更正処分が後に手続上の欠陥により取消され、正当な課税権の行使が不可能になつたとしても、法人税法一五九条の罪が成立し、同条及び同法一六四条所定の罰則が適用されるべきことには、何ら影響がないものと解すべきであり、論旨は理由がない。

以上のとおり本件控訴はいずれも理由がないから、刑事訴訟法三九六条によりこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(なお原判決書三枚目裏九行目に定期預金利息月払とあるのは定期預金利息月別の、四枚目表末行に質問填末書とあるのは質問顛末書の、同裏五行目に分配金証明書とあるのは分配金証明書二通の、各誤記と認める。)

(裁判長裁判官 久安弘一 裁判官 大野孝英 裁判官 山田真也)

配当所得表(一) (昭和40年度)

配当所得表(二) (昭和41年度)

○昭和五〇年(う)第七〇号 法人税法違反被告事件

被告人 栗山精麦株式会社

同 栗山好幸

昭和五〇年七月一七日

弁護人 竹下重人

広島高等裁判所

岡山支部 御中

控訴趣意書

右被告人らの頭書被告事件について、控訴の趣意はつぎのとおりである。

第一点 原判決は明らかに判決に影響を及ぼす事実の誤認がある。

一、本件公訴事実に係る検察官の主張の中心は、被告会社が長年に亘つて遠藤商店こと遠藤栄一からの玄麦の仕入れを架空に計上し、それに対する支払金名目で抽出した会社の資金を中国銀行鴨方支店に架空名義または他人名義の定期預金として預け入れこれを被告会社の簿外預金として保有し、その運用利益も同様にして秘匿し、被告人は被告会社の代表取締役として、被告会社の業務に関して右の行為をした。したがつて公訴に係る事業年度の被告会社の所得金額においては、遠藤商店からの玄麦の仕入金額、中国銀行鴨方支店における前記定期預金の受取利息、前記預金の拂出によつて取得された株式、投資信託についての利益配当金ならびにこれらの有価証券の処分益等はすべて所得金額に加算されるべきであり、一方中国銀行鴨方支店から被告人が被告人名義で借り入れた借入金は被告会社の債務と認めて、これに対する支払利息金額は所得金額から差し引くべきものである、というにあつた。

二、原判決は起訴状記載の公訴事実をすべて罪となるべき事実として認めているのであるから、検察官の前記主張を認めたものといわなければならない。

三、遠藤栄一は第一七回公判廷において、被告会社に玄麦を売り渡す取引をしたことがあるが、その期間、取引数量、金額ならびに被告会社から依頼されて水増請求をしたかどうかについては記憶がない、と供述した。原判決が証拠として採用している遠藤栄一の検察官に対する供述調書中には、検察官の前記主張にそう供述記載があるが、第二二回公判調書中遠藤静子の供述部分によれば、遠藤栄一が長期間の拘留、取調によつて身心共に疲労困ばいし、錯乱状態にあつた時期に、しかも弁護人以外の者との接見交通が禁止されていたに拘らず、警察官がひそかに遠藤栄一とその妻遠藤静子とを立会人なしで面接させるという不公正な利益誘導的手段を弄して作り上げた調書を基礎として作成されたものであることが十分に推測されるのである。これによれば、遠藤栄一の検察官調書の記載を、同人の公判廷における供述よりも、信用すべき特別の情況があつたということはできない。右調書の記載によつて架空仕入れの事実を認定したのは誤りである。

四、証人筒井靖枝(第九回公判)、同栗山繁昌(第一〇回公判)、同清水宏(第一三回公判)、同赤沢朝子(第一五回公判)の供述記載はいずれも本件公訴にかかる時期よりも前に関するものであつて、本件公訴に係る事業年度中の取引に関するものではない。また証人栗山繁昌は被告人の実弟、証人清水宏は被告人の義弟でありながら、事業上のことで被告人と対立し、反目している者であつて同人らの供述は信用すべきではない。

証人田口こと関シゲ子は本件公訴に係る期間の前半に、経理事務担当者として在職した者、証人生原こと山下俊子は製品検査係として在職した者であつて、玄麦仕入の実際に関与していないのであるからこれらの者の供述によつて、玄麦架空仕入れの事実を認めるのは相当ではない。

五、証人栗山静夫、同高橋吉之助、同渡辺康雄、同渡辺恒則、同加藤寿治、同畝山仁志らの供述によれば、同人らは浅口郡一帯で玄麦を集荷し遠藤商店を通じて被告会社に売り渡していたことを認めることができる。

六、中国銀行鴨方支店関係の証人荒川八郎(第三回公判)、同今在沢一(第四回公判)、同佐藤求(第七回公判)、同片岡末男(第二三回公判)、同梶谷重平(第二三回公判)等の供述によれば同支店における被告人の架空名義等の定期預金は、昭和三五年ごろから一億円を超えており、その後の増加額中には既存の預金の利息だけでも七百ないし八百万円ぐらいが含まれていること、定期預金が満期になれば元利合計金額または元金は新たな預金に書き換えて、利息金だけを被告会社の事務所(それは同時に被告人の住居と同じに使用されていた。)に持参して被告人の妻栗山章子に手交したこと、新規預け入れはすべて現金であつて、殆んどすべての場合栗山章子から右事務所において手交されたこと、預け入れの際の名義や使用印鑑は、銀行が調達したものが多いこと、預金の受入れの際その資金が何によつて作られたものであるかなどは確かめたことはないこと、そして被告人の裏預金であると思つていたこと、遠藤栄一が栗山精麦株式会社振出の小切手によつて現金を引き出していたことがあるが、その支払つた金額の行方などは分らなかつたことが認められるだけであつてそれらの定期預金の当初の発生時期、発生原因を確認することができず、また公訴に係る年間の預金の増加の原因を個々に確認することもできない、といわなければならない。

七、中国銀行鴨方支店長荒川八郎作成の「定期預金利息月払支払明細について」及び「定期預金残高について」を原判決は証拠の標目中に掲げているが、それら書類第一葉証明書の本文と作成者の署名の筆跡は明らかに異つており、証明文言は荒川八郎以外の者によつて作成されたものであることが窺われ、しかもそれは「岡山県浅口郡鴨方町大字六条院中三四六二番地 栗山精麦株式会社 社長栗山好幸」の預金と書かれているのであつてその住所は会社の住所であるとともに被告人の住所でもあるので、右の記載をもつて右定期預金が被告会社に属するものと断定することはできない。

八、大野利夫の検察官に対する供述調書、大野利夫、豊田敏郎及び中村憲治の収税官吏に対する各質問てん末書の記載によれば、被告人が、仮名による証券取引をしたこと、被告人が被告会社の社長であることを証券会社の者が知つていたことが認められるだけである。

野村証券株式会社岡山支店長越村隆作成の証明書、山一証券株式会社岡山支店長増田幸良作成の証明書はいずれも、証明文言と署名との筆跡が異つていて証明文言の部分は署名者以外の者によつて予め記載されていたものと推測されその内容も前記の七の場合と同様に、被告会社の取引か、被告人の取引かを区別し難い表現となつていて、これによつて右両者に委託してなされた証券取引が被告会社のものであつたと断定することはできない。

九、被告人の公判廷における供述によれば、被告人が昭和二三年ごろ精麦事業を開業したときから被告会社設立までの間の個人事業および被告会社設立後もわが国全体の食糧事情が好転して麦に対する需要が減少するまでは被告会社は高率の利益をあげていたのである。その個人事業の収益の蓄積、会社設立後の被告人およびその妻の報酬、賞与からの蓄積、被告人の他人に対する貸金の回収、被告人の副業収入の蓄積ならびに既往の預金の受取利息金等が本件公訴にかかる年分の預金増加の原因となつていることが窺われる。

仮りに会社の資産が役員に支給された場合にその支給を法人税法上賞与に該当するものとしてその損金算入を否認し、併わせてその支給額につき会社に対して所得税の源泉徴収義務を負わせる等のいわゆる税務調整がされることはあつても、その支給の事実が会社役員の同意によつて適法になされたものであるかぎりその資産は個人の所有となり、その資産の運用益は個人の所得となるわけである。

したがつて公訴にかかる事業年度前における中国銀行鴨方支店の定期預金の発生原因を個別的に究明しないままで、これらをすべて被告会社に帰属するとし、その結果それらの預金を担保として被告人を名宛人としてされた貸付を被告会社に対する貸付とし、その借入金をもつて被告人が取得した有価証券までもすべて被告会社に帰属すると認定したことは、証明力薄弱な証拠に依存して、重大な事実誤認をおかしたものといわなければならない。

第二 原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤がある。

一、法人税の納税義務は各事業年度の経過した時に成立する(国税通則法一五条二項三号)。納税義務者である法人は、法人税法所定の課税及び税額算定に関する各規定を解釈、適用して、法人税確定申告期限(法人税法七四条)までに課税標準および法人税額を申告し、納付することによつて当該事業年度の法人税の納税義務の確定および履行をすべきものとされている。

二、納税義務者が右の納税義務の確定を適正に行わなかつた場合には、税務署長は自ら調査したところによつて、更正または決定という処分によつて法人税の納税義務を確定することができる(国税通則法二四条ないし二六条)。これを国の課税権と理解することができる。

法人税を免れた罪(法人税法一五九条)は法人が偽りその他不正の行為により、法人税の納税義務を免れたことを要件とする。ここにいう偽りその他不正の行為とは、逋脱の意図をもつて、その手段として税の賦課、徴収を不能もしくは著しく因難ならしめるなんらかの偽計その他の工作を行うことをいう(最高裁昭和四二年一一月八日大法廷判決、刑集二一巻九号一一九七頁)ものであり、納税義務を免れた、とは脱税の結果の発生をいう。

したがつて右法条所定の罪は国の課税権に対する侵害の結果の発生を要件とする。

すなわち、納税義務者のする確定申告または税務署長のする更正、決定によつて具体的に確定されるべき納税義務が、客観的に存在し、納税義務者について偽りその他不正の行為が存在し、その行為の結果として正当に行使されるべき課税権を侵害した事実がなければならない。したがつて脱税犯の有罪判決においては、逋脱行為にとどまらず、その行為により逋脱した税額も認定判示することが必要である(最高裁昭和三八年一二月一二日判決、刑集一七巻一二号二四六〇頁)とされるのである。

三、法人税の脱税犯が純粋な結果犯であつて、未遂を罰しないことを考えれば、納税義務者の脱税行為によつて侵害されるところの課税権は、納税義務者の脱税行為がなされた時点において存在するだけではなく、裁判時までに行使されて正当な納税義務を確定しているか、裁判時においてもなお適法に行使して正当な納税義務を確定しうべきものとして存在していることが必要であると解さざるを得ない。

四、本件公訴にかかる事業年度について、確定申告、玉島税務署長がした課税(更正)処分および本件公訴にかかる所得金額および法人税額はそれぞれ左の表記載のとおりである。

なお右更正処分は昭和四二年一二月八日付でされていた。

昭和三九・六・一から昭和四〇・五・三一まで 昭和四〇・六・一から昭和四一・五・三一まで

所得金額 法人税額 所得金額 法人税額

確定申告二、三七一、七七三円 六九七、八二〇円 二、三五四、六一四円 七〇〇、七七〇円

更正二八、二八三、〇二九 一一、〇五四、二〇〇 一八、〇九五、三八二 七、〇〇三、五〇〇

公訴二八、一〇八、三一六 一〇、一八二、五〇〇 一八、二八一、七八二 六、五五四、八〇〇

五、被告会社は、従前から青色申告書提出について所轄税務署長の承認を受けた青色申告法人であつたが、所轄の玉島税務署長は、昭和四二年一二月八日付をもつて、右承認を昭和三六年六月一日開始の事業年度に遡つて取り消すとともに、被告会社が前項記載事業年度について提出していた確定申告書を青色申告書によらない申告書であるとし、前記更正処分を、更正理由の附記されていない、更正通知書によつてしたのである。

ところが玉島税務署長は昭和四九年七月二二日付をもつて、前記青色申告承認取消処分を職権をもつて取り消し(同通知書)、同時に前記各更正処分の全部を取り消した(同取消通知書)のであるが、その時には前記各事業年度の法人税について課税権を行使することのできる期間(国税通則法七〇条)を経過していたので、再度の更正はなされなかつた。

これによつて前記各事業年度の法人税については、被告会社のした確定申告書どおりに確定し、その額を超える課税権は行使され得ないこと、いいかえれば存在しないこととなつたわけである。

六、以上のように公訴に係る事業年度について、納税義務者の申告により確定した法人税の納税義務を超える課税権が行使され得ないことが確定した場合には、課税権侵害の結果は現実化する余地がないのであり、課税権の消滅は納税義務者の行為には全く関係のない理由によるものであるから、仮りに被告会社および被告人において法人税の脱税の結果をもたらすべき所為があつたとしても、法人税法一五九条、同法一六四条の罪が成立する余地はないものである。

原判決は右法条の解釈、適用を誤つており、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

以上

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